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Q1.重量10,000Nの機体に20,000Nの揚力が働くモデルで、荷重倍数は?

答え:2

荷重倍数は揚力÷重量です。20,000÷10,000=2であり、機体の質量が2倍になったという意味ではありません。

本文で確認:荷重倍数は「重量に対して、どれだけの揚力か」

Q2.定常・協調・水平旋回でバンクを深くすると、総揚力を増やす必要があるのはなぜ?

答え:揚力が傾いて減る鉛直成分を、重量と釣り合わせるため

傾いた揚力の鉛直成分が重量を支えます。高度を一定に保つモデルでは、バンクが深いほど総揚力と荷重倍数が増えます。

本文で確認:n=1 / cosφは、どんなときに使える?

この2問だけで理解全体や実技能力は判定できません。実際の運航判断には使わず、本文の前提・例外も確認してください。


「60度では2Gになる」と覚えていても、なぜそうなるのか、どんな旋回でも成立するのかと聞かれると迷いませんか。

鍵になるのは、高度を保つために必要な揚力です。この記事では、からまでを二つの式でつなぎ、式を使える条件も整理します。迎角と揚力の関係があいまいな場合は、先に「揚力の基礎|迎角・速度・失速の関係を整理する」を復習すると理解しやすくなります。

この記事は固定翼機の基礎空力を学ぶための解説です。数値例は計算用の仮定であり、特定の機体の操縦速度や訓練手順を示すものではありません。

荷重倍数は「重量に対して、どれだけの揚力か」

ここでは、通常の空力学で用いる揚力に関する荷重倍数を、次のように表します。

n=L / W

  • n:荷重倍数(単位のない比)
  • L:飛行機に働く揚力
  • W:飛行機の重量

揚力と重量が等しければn=1、揚力が重量の2倍ならn=2です。後者は「2G」と表現されますが、機体の質量が2倍になったわけではありません。また、各部の構造荷重や運用限界をこの式だけで判断することはできません。

例えば重量を10,000 Nと仮定すると、1Gで必要な揚力は10,000 N、2Gでは20,000 Nです。「何倍の揚力が必要か」という比に注目すると、失速速度の話につながります。[FAA Instrument Flying Handbook、第4章「Load Factor」]

n=1 / cosφは、どんなときに使える?

バンクすると、揚力は鉛直上向きから傾きます。揚力を分けて考えると、鉛直成分が重量を支え、水平成分が飛行方向を変える役割を持ちます。

次の式は、定常・・水平旋回を扱う基本モデルです。

  • 定常:速さとバンク角が一定に保たれている
  • 協調:横滑りがほぼない
  • 水平:高度が一定に保たれている

推力などの鉛直成分を無視できるとすると、バンク角をφとして、鉛直方向の釣り合いは「L cosφ=W」です。両辺を整理すると、

n=L / W=1 / cosφ

となります。φが60度ならcos60°=0.5なので、揚力の半分しか鉛直方向に使えません。重量と等しい鉛直成分を確保するには、全体の揚力が重量の2倍必要になるわけです。

「バンクした瞬間に必ず2Gになる」という意味ではありません。ロール中、降下中、引き起こし中など、この条件がそろわない場面では、バンク角だけから荷重倍数を決められません。同じ60度でも、飛行経路と操縦入力によって荷重倍数は変わります。[FAA PHAK、第5章「Load Factors in Steep Turns」]

失速速度が√n倍になる理由

失速は、翼がを超えることで起こります。速度が一定でも、水平旋回に必要な揚力を得ようとして迎角を増やせば、臨界迎角に近づきます。「低速だから失速する」とだけ覚えると、この関係を見落とします。

同じ重量、翼面積、機体形態で、が変わらないと仮定しましょう。空気密度も同じとし、計器誤差を扱わない理論上の対気速度を比べます。揚力は速度の二乗に比例するため、失速直前にn倍の揚力を出すには、速度が√n倍必要です。

Vs,n=Vs,1 × √n

Vs,1は同じ条件の1G失速速度、Vs,nは正の荷重倍数nに対応する失速速度です。n=2なら√2≒1.414なので、約41%高くなります。2Gだから失速速度も2倍、ではありません。

これは正荷重側の基本関係です。重量、、着氷などで条件が変われば、基準にする失速速度や最大揚力係数も変わります。負の荷重倍数をそのまま平方根に入れて使う式でもありません。[FAA PHAK、第5章「Load Factors and Stalling Speeds」]

30度・45度・60度を計算で比べる

同じ条件の1G失速速度を仮に50 ktとして計算します。表は定常・協調・水平旋回のモデルによる値で、小数は四捨五入しています。

定常・協調・水平旋回での理論計算(1G失速速度を仮に50 ktとした場合)
バンク角 荷重倍数 n 失速速度の倍率 √n 仮定50 ktでの計算値
0度 1.000 1.000倍 50.0 kt
30度 1.155 1.075倍 53.7 kt
45度 1.414 1.189倍 59.5 kt
60度 2.000 1.414倍 70.7 kt

45度を例にすると、「n=1/cos45°≒1.414」、続いて「50×√1.414≒59.5 kt」という順番です。先に荷重倍数を求め、その平方根を速度に掛けます。

表の増え方は一定ではありません。バンク角を同じ15度増やしても、30度から45度より、45度から60度のほうが荷重倍数は大きく増えます。これは1/cosφという関係から分かることです。

計算値は安全余裕を含まず、実機のにそのまま読み替えられません。実際の速度・制限・手順は、その機体のAFM/POHと訓練機関の規定で確認してください。FAA AFHでも水平旋回における45度・60度の例を説明しています。[FAA AFH、第10章「Steep Turns」、10-2頁]

バンク角の暗記だけでは防げない誤解

「浅いバンクなら失速しない」とは言えません。翼が水平でも、急な引き起こしなどで正の荷重倍数が増えれば、1Gより高い速度で失速し得ます。高度の低下を止めようとして強く引く場面でも、速度だけでなく迎角と荷重の増加を考える必要があります。

「高度が下がっているから荷重倍数は低い」とも限りません。降下中でも、その降下を急に止めようとして飛行経路を曲げると、荷重倍数は大きくなり得ます。「降下している」という状態と、「どんな加速度が生じているか」は別の情報です。

さらに、非協調飛行で失速した場合、左右の翼の状態がそろわず、急なロールやスピンにつながるおそれがあります。特にベースからファイナルへの旋回で、行き過ぎを無理に修正しようとする状況は、FAA教材でも取り上げられています。小さなバンク角や計算上の速度だけを安全の根拠にしてはいけません。[FAA AFH、第5章「Accelerated Stalls」「Cross-Control Stall」、5-19〜5-20頁]

理解を確かめる3問

問1:バンク角60度なら、飛行状態に関係なく荷重倍数は2になる。○か×か?

答えは×。n=1/cosφを使うには、定常・協調・水平旋回という条件が必要です。

問2:同一条件の1G失速速度が50 ktなら、2Gでの理論上の失速速度は100 ktになる。○か×か?

答えは×。50×√2≒70.7 ktです。荷重倍数をそのまま掛けず、平方根を掛けます。

問3:翼が水平で、速度が普段の1G失速速度より高ければ、失速の可能性はない。○か×か?

答えは×。急な引き起こしなどで迎角が増え、臨界迎角を超えれば失速し得ます。

復習するときは、「旋回の条件を確認する→必要な荷重倍数を求める→同じ条件の失速速度と比べる」の順で考えてみてください。関連する基礎項目は「飛行の原理・機体」の記事一覧で確認できます。

参考資料と適用範囲

  • FAA『Pilot’s Handbook of Aeronautical Knowledge』第5章「Load Factors in Steep Turns」「Load Factors and Stalling Speeds」(5-34頁以降):公式章別PDF
  • FAA『Airplane Flying Handbook』第10章「Steep Turns」(10-2頁):公式PDF
  • FAA『Airplane Flying Handbook』第5章「Accelerated Stalls」「Cross-Control Stall」(5-19〜5-20頁):公式PDF
  • FAA『Instrument Flying Handbook』第4章「Load Factor」(4-12頁):公式PDF

資料確認日:2026年9月19日。FAA資料は空力の一次教材として参照しており、日本の法令や試験・訓練要件を示すものではありません。実機での判断・操作は、当該機の正式資料と教官の指導に従ってください。